紀伊半島の巨石を尋ねて

Last Update: February 23, 2019
Since: February 13, 2019

“巨石信仰”といわれる特別な巨石・巨岩に対して信仰する行為は、古来から世界的に行われている。「自然にある巨石・巨岩には、神が宿っている」と考えて 信仰することからはじまる。 日本の神社では、巨大な石をご神体として祀っているところが多くあり、神の宿る巨石・巨岩は磐座いわくらと呼ばれてきた。 磐座とは岩でできた座席であり、そこに神が降りてくるので、その岩がある場所で祭祀が執り行われた。磐座は磐倉とか岩倉ともよばれ、古神道における 岩に対する信仰のことで、自然崇拝・精霊崇拝である。

紀伊半島の巨石マップ




古座川峡にある一枚岩(国指定天然記念物)は、幅 500m 、高さ約 100m の大岸壁で、古座峡の奇岩(天柱岩・飯盛岩・ぼたん岩・高地の虫喰岩など)とつながっている。 これらは熊野カルデラ火山の地下深くでマグマからできた岩体である。長い年月で、地上に現れた岩体が風化浸食され、現在のような珍しい形となった。


一枚岩一枚岩





橋杭岩(国名勝天然記念物)は、串本の鬮野川くじのかわ橋杭の海岸から紀伊大島に向かい、海中に約850mの列を成して大小40余りの岩柱が そそり立っている。その規則的な並び方が橋の杭に似ていることからこの名が付いた。橋杭岩は、1500万年前の火成活動により、泥岩層の間に流紋岩が貫入したもので、 その後、海の浸食により岩の硬い石英斑岩が杭状に残り、あたかも橋の杭だけが立っているように見えるようになった。


橋杭岩橋杭岩





磐座いわくら(国指定史跡・世界遺産)は、神倉山の中腹にあり(新宮市神倉1-13-8)、熊野の神々が最初に降臨したといわれている聖なる巨岩。 “ごとびき”ともいい、熊野の方言でヒキガエルのことで形が似ているので名付けられた。 ごとびき岩へは、源頼朝が寄進したといわれている 538 段の急峻な石段を登る。巨岩(ことびき岩)の横には神倉神社がある。
この巨岩は、熊野市の花窟神社の巨岩とセットされている。神倉神社の巨岩が陽石で、花窟神社の巨岩が陰石となっている。


538段の石段ごとびき岩(磐座)





日本書紀にもでてくる日本最古の神社“花の窟”(世界遺産;熊野市有馬町上地130-3)は、イザナミノミコトの陵であり、熊野三山の根源地として 岩倉神社にある“ごとびき岩”と共に、古代の信仰にとって重要な神域となっている。 約 166m の大綱を高さ約 45m の神体である窟の頂上から七里御浜へ引き出して境内へ渡す「綱懸神事」は、五穀豊穣を祈願するとともに、神と結びつながり、 神の恵みをいただく太古から受け継がれてきた神事である。
イザナミノミコトの陵といわれている巨岩の対面の岩場には、火の神であるカグツチノミコトが祀られている。


花の窟花窟神社




獅子岩(天然記念物・世界遺産;熊野市井戸町)は、地盤の隆起と海蝕現象によってできた。高さ約25m、周囲約210mの奇岩。 昔から南側に位置する神仙洞の吽(うん)の岩(雌岩)に対して阿(あ)の岩(雄岩)と呼ばれ、井戸川上流に位置する大馬神社の狛犬として敬愛されていた。
2004年7月に、ユネスコの世界遺産『紀伊山地の霊場と参詣道』の一部として登録された。


大洋に向かって吠える獅子岩獅子巌の石碑




鬼ヶ城は熊野市木本町にある海岸景勝地で、国の名勝“熊野の鬼ケ城 附 獅子巖”の一部となっている。 伊勢志摩から続くリアス式海岸最南で、大地震で隆起した 凝灰岩が波の侵食で大岩壁を形成している。海岸線沿いに千畳敷、奥の木戸、鬼の風呂場、木喰岩、ワニ岩、神楽岩といった 15 の特徴のある洞窟や絶壁が 25q に わたって七里御浜しちりおんはまといわれる緩やかな海岸線が続く。
鬼の見晴台といわれる展望台から熊野灘が一望でき、頂上には鬼ヶ城跡があり、熊野灘が一望できる。そこから熊野古道・松本峠と連結するハイキングコースがある。



鬼ヶ城鬼ヶ城(海岸線)鬼ヶ城(ワニ岩)
鬼ヶ城(奥の木戸)鬼ヶ城(千畳敷)鬼ヶ城(木喰岩)





丸山千枚田まるやませんまいだ(熊野市紀和町丸山)は、紀和町丸山にある白倉山(標高736m)の南西斜面を利用した棚田群。 千枚田と言われるが、実際には高低差 160m(標高90-250m)の谷合に約 1,340 枚(7ha)の棚田がある。最も小さい田は、1枚で 0.5u しかない。 棚田の法面は野面積のづらづみを主とした石積みであり、西日本に多く見られる方式である。
千枚田の中腹にある“大石”は、幾千年も過ぎてゆく時間を見守ってきた千枚田のシンボル(守護神)となっている。


丸山千枚田千枚田の中央にある大石千枚田の石碑






【参考文献・データ】
  1. 古座川町 『古座川町観光ガイド』           2019   http://www.town.kozagawa.wakayama.jp/kankou/sub001.html
  2. 串本町産業課商工観光Gr  『和歌山県ふるさとアーカイブ』     2019
  3. 文化庁文化財部  『月刊 文化財』 631号(古代山城の世界)  第一法規     2016
  4. 新宮市教育委員会 『新宮市の文化財』 新宮市文化財審議会      1990
  5. 五来 重   『「吉野・熊野修験道の成立と展開』  名著出版       1976
  6. 小倉 眞・小野寺淳・青木幸代  『丸山千枚田の文化的景観とその保存の実態』 茨城大学教育学部紀要  <58>       2009
  7. 三重県・奈良県・和歌山県 『世界遺産 紀伊山地の霊場と参詣道』      世界遺産登録推進三県協議会      2005