段の塚穴

段の塚穴

Last Update: November 02, 2017
Since: October 27, 2017


段の塚穴は、徳島県美馬市美馬町字坊僧にある河岸段丘かがんだんきゅう(河川の中・下流域に流路に沿って発達する階段状の地形)の先端にある
2基の円墳のことで、どちらも横穴式石室をもっている。築造されたのは、どちらも約 1400 年前の古墳時代後期と推測されている。東側の大きい古墳が太鼓塚古墳、 25m 離れた西側の小さい古墳が棚塚古墳とよばれている。

☆太鼓塚古墳☆(国指定史跡)
 直径約 37m 、高さ約 10m の円墳で、中心部に横穴式石室がある。石室の規模は全長 13.1m(玄室長 4.8m)、高さ 4.3m 、幅 3.4m で四国最大級の 石室をもつ。構造は玄室がドーム状に造られている。
太鼓塚古墳の入口太鼓塚古墳の石室内部

☆棚塚古墳☆(国指定史跡)
 直径約 20m 、高さ約 7m の円墳で、埋葬施設として横穴式石室がある。石室規模は全長 8.7m(玄室長 4.5m)、高さ 2.8m 、幅 2.0m で太鼓塚古墳と 同じく、玄室をドーム状にしている。玄室の奥壁には立派な石棚がある。
棚塚古墳の入口棚塚古墳の石室内部



段の塚穴の航空写真・地図



塚穴型石室logo


太鼓塚古墳、棚塚古墳にみられる特異な石室構造は、段の塚穴の2基のみでなく、この地区(美馬市、阿波市)の古墳に共通してみられる。 この特異な石室は、段の塚穴の名前から「段の塚穴型石室」と分類されており、玄室の天井を斜めに持ち送り、玄室側壁を胴張りにし、玄室を ドーム状にすることを特徴としている。また、この型式の石室には、奥壁に石棚をもつものが多くみられる。 段の塚穴型石室をもつ古墳は、分布範囲がほぼ美馬地区に限られていることから、この地区に同族集団が居住していたと考えられる。



美馬市の古墳logo


美馬市美馬町には、段ノ塚穴をはじめとして多くの横穴式石室をもつ古墳が築造されている。これらの古墳の石室は、段ノ塚穴古墳のようにドーム状の天井構造に 隅丸(玄室の床面の隅角などが丸味をおびている)または太鼓張状の平面をもつ石室であり、段ノ塚穴型石室と呼ばれている。
この段ノ塚穴型石室が美馬市美馬町・美馬市つるぎ町・阿波市阿波町に亘って 32 基の古墳が分布している。分布状況は、吉野川の左岸と右岸の両方に細長く約 18 km に およんでいる。



◎大国魂古墳◎(市指定史跡)  美馬市美馬町東宮ノ上
 八幡神社の左にある109段(七五三の15段、女厄除けの33段、男厄除けの61段)を登ると倭大国魂やまとおおくにたま神社の境内に到達する。 境内に入ってすぐ右に大国魂古墳の指標が見える。横穴式石室は南東に開口し、全長4.6m 、玄室長 2.17m 、幅 2.22m 、高さ 2.09m で奥壁には石棚がある。 玄室はやや胴張りをもつ正方形プランで、天井石の持ち送りは角度が揃っていない。側壁は砂岩と結晶片岩が混在しており、石材や構築法が定型化されていないことから、 段の塚穴型でも最古の古墳ともいわれている。
境内には3基の古墳があるが、開口しているのは1基のみで、これを大国魂古墳をいっている。円墳の頂上部分が陥没している。

   

海原かいはら古墳◎(市指定史跡)  美馬市美馬町西荒川
   荒川古墳の西北西 300m 、養鶏場の東にある。径 15m の円墳で、東側が削られている。南に開口する横穴式石室も東側側壁がほとんど失われている。穹窿式石室の構造が 良く解る。全長 9.1m 、玄室長 4.35m 、幅 2.25m 、高さ 2.8m で、天井を前後から持ち送っており、西側壁はほとんど垂直に立ち上がっている。玄門の袖部には僅かに残っている。 奥壁側に石棚と石障があり、床面には礫が敷かれている。段の塚穴型。


◎平野古墳◎(市指定史跡)  美馬市美馬町平野
 海原古墳の北東 300m の竹林中にある。径 10m の円墳で、西向きに開口する横穴式石室は玄室長 2.09m 、幅 1.96m 、高さ 2.1m で棚はない。玄室は胴張り、天井は穹窿式で あり段の塚穴型。天井石は結晶片岩、それ以外は砂岩で築かれている。


◎荒川古墳◎(市指定史跡)  美馬市美馬町
 重消東小学校の北西 400m の古い公民館の奥にある。河岸段丘上に築かれた径15m ほどの円墳で、墓地内の南向きに横穴式石室が開口している。羨道は狭いが、玄室はわりあい 広い。全長 8.6m 、玄室長 3.4m 、幅 2.64m 、高さ 3m 、羨道幅 1.1m の両袖式で、奥壁は結晶片岩の1枚石、高さ 1m ほどのところに石棚が付いている。天井は前後を持ち送りで 段の塚穴型。玄門部には袖石がなく、羨道の途中に立石がある。


◎真鍋塚古墳◎  美馬市美馬町
 常念寺の南方向約 200m の旧撫養街沿いにある真鍋家の屋敷内にある。コンクリート塀から径 10m ほどの円墳が目に付く。横穴式石室は南に開口しており、 羨道がほとんど残っていない。玄室長 3.9m 、幅 2.15m 、高さ 2.3m 、羨道長 1m 以上、幅 1.35m の両袖式で、奥壁は低い鏡石のすぐ上から持ち送って 穹窿きゅうりゅう(半球状)天井を構築する段の塚穴型の古墳。結晶片岩の割石で築いているが、天井石の一部は砂岩を使っている。 側壁は割石をやや胴張り状に積み、玄門は立石の上に見上げ石を載せている。現在、真鍋家は空き家になっている。

   

◎野村八幡古墳◎(県指定史跡)  美馬市脇町野村
 吉野川北岸に発達する扇状地の野村八幡神社境内にある横穴式石室をもつ円墳。神社の本殿に削り取られているが、墳丘径 29〜30m 、高さ 6m の規模がある。 横穴式石室は南に開口しており、玄室の平面形が胴張りとなる段の塚穴型石室である。側壁の奥壁寄りには、両側の壁をつなぐ大きな板石を組み込んだ石棚がある。 開口部付近が改変されている様子からは、横穴式石室は現状の 9m からさらに 3m ほど長くなるとみられる。採集遺物からは、6世紀後葉の築造と考えられる。
段の塚穴と並んで、吉野川中流域を代表する後期古墳である。野村八幡神社の本殿前にある。




《追記》
上記に記述した以外に、段の塚穴型石室をもつ古墳は…
八幡1.2.3号墳、西山古墳、畠枝古墳、江の脇古墳、道万塚古墳、岩倉1.2号墳、国中古墳(市指定史跡)、遊佐古墳、三島1.2.3号墳(市指定史跡)、三谷古墳、 尾山古墳(市指定史跡)、戎1.2号墳、北原古墳、拝中古墳(市指定史跡)、拝東古墳(市指定史跡)、北岡西古墳、北岡東古墳、他に名称のない2基の古墳。


【参考文献・データ】
     
  • 岡山真知子・中川尚   『段ノ塚穴型石室に関する若干の考察』  阿波学会紀要 55 135-139  2019  
  • 岡山真知子・大塚一志 『海原古墳調査報告』  徳島県博物館紀要 19     1988       
  • 美馬市教育委員会   『四国のまほろば 美馬市文化財マップ』  美馬市  2017  
  • 美馬市経済部商工観光課   『いにしえのおもむき 美馬の寺町』  美馬市  
  • 岡山真知子  『古墳時代の美馬町』  美馬町史                   1989  
  • 天羽利夫   『徳島県下における横穴式石室の一様相』  徳島県博物館紀要 4     1973  
  • 脇高郷土研究同好会   『野村八幡古墳測量調査報告』  徳島県立脇町高等学校研究紀要 8  1982


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